人畜無害の散流雑記

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「無償化が医療費を大幅に増やす」とする「研究結果」の検証を

厚労省はこれまで、無償化が医療費を大幅に増やすとする研究結果や、不要な薬の投与の助長で子どもの健康を害するといった理由をもとに減額措置の必要性を強調してきた。今回は方針転換を迫られた形だ。」(朝日新聞23年4月6日 「高校生までの医療費助成 国庫負担の減額廃止へ」)

 少子化対策の一つとしての医療費助成が論じられているが、そこに出てくるのが「研究」結果だ。いつ・どこで・誰が・何を対象に実施された研究か? という説明はこれまで読んだ記憶がない。一般化して論じられるほどに常識化しているとも思われない。
 グーグルで調べると、「東京大学」の下に「子ども医療費「タダ」の落とし穴 ―医療需要における「ゼロ価格 ...」(2022/09/29)を見つけた。東大の2人の教授による発表で「「ゼロ価格効果」は、学生等を被験者とした実験では確認されていたが、実際の消費行動に基づくリアルデータを用いた分析としては、世界で最初の論文」だそうで、第三者による追試や再確認はされていないようだ。
「日本では、医療費の自己負担率は原則3割だが、子どもに対しては多くの自治体が助成を行っている。自治体間による助成競争の結果、市町村ごとに、①助成対象となる年齢、②自己負担額が異なる。②に関しては、3割分を全て負担して医療費を「タダ」にする無償化が主だが、それ以外に 10%、20%などの定率負担や、1回の受診ごとに 200円、300円といった少額を払う定額負担の自治体が存在する。/本研究では、人口の多い6県(294市町村)についてこれらの医療費助成の情報を2005〜15年の10年分収集し、JMDC社の6〜15歳のレセプトデータに結合しデータを構築した。そして、上記の①及び②に関する、市町村の内容の違い、及び導入のタイミングの違いを利用する、「Difference-in-differences method(差分の差分法)」という計量経済学の分析手法を用いた。」
 その結果だけが示されるのだが、データの精度や分析手法の選択が妥当かどうかの検証は示されていない。
 この研究の結論は、「ゼロ価格効果の存在は、裏を返すと、1回 200円といった少額であっても、自己負担を課すことで、ゼロ価格に比べて医療需要が大幅に減ることを意味する。そこで、少額の自己負担(200円/回)を課すと、1)どのような子どもの医療が減るか、2)どのような治療がより減るか、の検証を行った。その結果、1)に関しては、健康状態のよくない子どもが月に1回以上受診する割合は減らないが、比較的健康にもかかわらず頻繁に医師を訪れる子どもの受診が大幅に減る、ことがわかった。つまり、少額の自己負担は、不健康な子どもに悪影響を及ぼすことなく、比較的健康な子どもの過剰な医療需要を減らすことができると思われる。2)に関しては、「価値が高いとされる医療」と「価値が低いとされる医療」(注1)のどちらも減少するが、特に、後者の例である、不適切な抗生物質の利用の減少幅が大きかった。このような医療については価格を完全に無料とせず少額であっても自己負担を課すことで、不適切な治療を減らすことが可能と考えられる。」
 ここで「大幅」と言っているが、2倍・3倍になるのではない、示されているグラフではせいぜい数%だ。「大幅」という表現は数学的にもあいまいだ。「比較的健康な子ども」の受診であれば医師の手間はかかっても薬代はかかるまい。そのあとの「不適切な抗生物質の利用」も医師の処方の問題であって、患者側の責任ではない。
 少子化対策の一分野での医療費助成への議論が記事になると、いつもこの厚労省の言い分が提示されるが、繰り返されるうちに、これが一般化されて常識のようになってしまう。はたして、提示されている研究結果がどの程度のものなのかよってたかって検討する必要があろう。せめて、マスコミは、政府の言い分を無批判に掲げて片棒を担ぐのはやめてもらいたい。
 読者を巻き込んで議論するのなら、政府の審議会に提出されている資料を提示し、その是非の検討が必要だ。議事録が公開される審議会は少ないのだから、読者が審議するのが一番分かりやすいだろう。