人畜無害の散流雑記

別ブログ閉鎖で引っ越して来ました。自分のための脳トレブログ。

 トリチウムは福島第一で永久保管を

 福島第一原発で溜まり続けるトリチウム水の海洋放出策が実施に向けて粛々と手順を踏んでいる。「これ以上溜められない・保管できない」という東電の悲鳴を受けてのものだ。政府の専門家委員会と称する集団は、原発容認が前提なので東電に優しく・環境には厳しい。「薄めて出せばいい」というのは、結局「放射性物質の大量拡散容認」だ。濃い味噌汁を薄めて全部飲めば、体内に入る塩分量は同じだ。
 ここでの論点は2つ。環境汚染の総量規制と内部被曝だ。
 
  ●これ以上の放射性物質環境汚染を防ぐ
 自然放射線源は地球の生成過程で生まれてきたものであり、その存在を前提として生命は発生し、細胞レベルで対応し進化してきた。
 人工的放射性物質の大量拡散は、1945年7月の核実験から始まった。それまでにも、レントゲン技師や夜光塗料作業者の被曝はあったが、特定の業種にとどまっていた。広島・長崎以降、冷戦下で、核開発競争が激化し、大気圏に放射性物質が飛び交った。1963年8月の米英ソ・部分的核実験禁止条約成立で、大気圏内核実験が中止され、それ以降、放射線量が減っていく。だが、地下核実験の続行や仏中を始め新興国による核開発で放射性物質の拡散は続く。
 核開発が一段落すると、原子力という名の新事業が立ち上がり、原発が作られる。ウランの発掘・精製、原発用燃料の生産、原発運転、原発廃棄物という過程のすべてで放射性物質が放出される。核爆発は放射性物質の瞬間的大量拡散であり、原発は管理下での持続的逐次的少量拡散だった。そして、スリーマイル、チェルノブイリ、福島と原発事故での放射性物質の大量拡散となる。セシウム137は自然由来ではないし、トリチウム炭素14などの放射性同位体の量も人工的だ。現在の地球上の放射線物質の種類・量ともに自然環境から逸脱している。農薬を始めとする各種化学物質、二酸化炭素・窒素化合物などの温暖化物質と合わさって人間を含む生物環境を汚染している。レーチェル・カーソンは『沈黙の春』(1962年刊)ですでにそれを指摘していた。
 トリチウムの海洋放出は、放射性物質大量拡散による環境破壊であり、その生物濃縮による海洋生物・人体への内部被曝にもつながっている。燃料棒・汚染土壌などとともに福島第一原発内で保管するのが妥当だ。放射性物質の大量拡散を続けると、食料輸入拒否などの継続を含め国際的批判が強まるだろう。IAEAは被害を補償してくれない。
 以下は、ウイキペディアからの引用(2020年2月27日現在)だが、この見解を支持するのが妥当だ。トリチウム半減期は12.3年。
「日本においては、発電用原子力施設で発生する液体状の放射性廃棄物については、時間経過による放射能の減衰、大量の水による希釈といった方法で、排水中の放射性物質の濃度を規制基準を超えないように低減させた上で排出することとなっている。トリチウム水については、周辺監視区域外の水中の濃度が60[Bq/cm3](=60000[Bq/L])を超えてはならないと定められている。高度情報科学技術研究機構(もと原子力データセンター)によると、トリチウムには海産生物による濃縮効果がないと考えられている。そのため、他の核種の100倍を越える量が海洋に放出されている。
 2001年には、英国ブリストル海峡での二枚貝やカレイの体内に、高濃度のトリチウムがあるとの論文が発表されている。海水の濾過が不十分であると、トリチウム水以外のトリチウムが加算され、生物濃縮が過小評価されうること等、トリチウムおよび濃縮率の測定問題等が指摘されている。 英国食品基準庁の指針に従い、1997年より10年間、毎年調査をし続けた結果では海水が5~50Bq/Lであったのに対し、ヒラメは4,000~50,000Bq/kg、二枚貝イガイは2,000~40,000Bq/kgの濃縮が認められ、濃縮率の平均値はそれぞれ3,000倍と2,300倍であった。一方で、トリチウム水で育てた海藻を二枚貝イガイへ与えた実験では、投与量に比例してトリチウムが蓄積し続けることが確認されている。」「水からトリチウムを分離する技術も研究されている。近畿大学工学部(広島県東広島市)は、水を微細な穴を持つアルミニウム製フィルターに通すことでトリチウム水を分離する装置を東洋アルミニウムなどと共同開発したと2018年6月に発表した。
 単にトリチウム水含有汚染水の量を減らすだけであれば、同位体効果を利用して汚染水から軽水を分離して、トリチウム水と重水の濃度を高めていけば良いのであるが、トリチウム水だけでなく高濃度の重水も生物に悪影響を及ぼすので漏出しないように厳重に保管する必要がある。」

  ●内部被曝と細胞膜損傷
 生物濃縮との関係で内部被曝は重大問題だ。これまで、放射能被爆・被曝の人的被害は「ガン」で代表されてきた。放射線細胞核に当たり、遺伝子を損傷し、その結果ガンが発生するという説だ。逆に言うと、ガンでなければ被爆・被曝被害ではないとされた。広島・長崎被爆者の恣意的な調査結果から、大量被爆だけが抽出され、被害が限定された。だが、放射能の外部・内部被曝の症状はガンだけではない。典型的な晩発性障害として、広島・長崎の「原爆ぶらぶら病」、米・被爆兵士の「慢性疲労症候群」、チェルノブイリ周辺での「放射能疲れ」と呼ばれていた全身のだるさがある。(『内部被曝肥田舜太郎
 ほかにも、福島での鼻血論争は記憶に新しい。ウクライナでは30年経っても、近郊の学校の生徒たちは頭痛・足痛など体部の痛みに悩まされていた。そこで、カリウム入り化学肥料を散布し、牛の飼料となる牧草からセシウム137を削減し、野生の茸の採集を止めたところ、体痛は激減した。この初回調査の際、歓迎会に出された茸料理を食べ、帰国後、体調を崩し回復に半年程度掛かったという報告もある(『食品と暮らしの安全』、小若順一)。
 これらの有力な病因がペトカウ効果だ。これは、
①少量の慢性的な放射線照射は、高線量の短時間照射より細胞膜の損傷が大きい。つまり、微弱な内部被曝で人体被害が起きる。
②細胞膜は、放射線の作り出す活性酸素によって損傷される。
放射線は免疫系細胞に障害を与え、感染の危険が増大する。また、肺気腫・心臓病・糖尿病など加齢進行による病気に繋がる。
 というもので、カナダのアブラム・ペトカウ医師が1972年3月に発見し、その後発表したものだ。③に関係して、最近では、ミトコンドリアのエネルギー産出過程で活性酸素が作られるが、この過程に放射線で発生した活性酸素が悪影響を及ぼしているという説や赤血球変形説がある。
 細胞膜の損傷に必要な量は、外部照射では「全量35シーベルト」に対し、放射性食卓塩水溶液中では「全量7ミリシーベルト」と5000分の1だった。(『人間と環境への低レベル放射能の脅威』ラルフ・グロイブ/アーネスト・スターングラス)
 国際的な放射線防護機関=原発容認・推進機関では、当然ながらペトカウ効果を無視し認めていない(ICRP、UNSCEAR、BEIR)。
 2009年8月、長崎大学・七条和子助教らのグループは、被爆から60年以上経っても、体内の放射性物質放射線を放出している様子を撮影している。「爆心地から0.5~1キロの距離で被爆、急性症状で1945年末までに亡くなった20代~70代の被爆者7人の解剖標本を約3年間にわたり研究。放射性物質が分解されるときに出るアルファ線が、被爆者の肺や腎臓、骨などの細胞核付近から放出され、黒い線を描いている様子の撮影に成功した。アルファ線の跡の長さなどから、長崎原爆に使われたプルトニウム特有のアルファ線とほぼ確認された。」(2009年8月7日共同通信、ネット内のコラムから転載)
 2018年8月9日の長崎大学ネットニュース掲示板では「長崎原爆被爆者のプルトニウム内部被ばく」と題して、「アルファ線による内部被ばくに特異的である局所的に高い吸収線量による細胞レベルの生物効果に着目し、アルファ粒子飛跡末端近く(Bragg peak)における細胞核の線量を算出しました。結果、そのアルファ粒子が当たった幹細胞の核では1.29Gy、血管内皮細胞核では3.35Gyと高線量を示しました。このことは、内部被ばくにおける細胞局所への影響の重要性を示すものです」と書いている。
 細胞核に焦点を当てているのは、現在の被爆・被曝の見方に立つ限界だが、それにしても内部被曝の持続性が実際に証明されている。
 いまも続く原爆症認定裁判では、被爆後の慢性的な痛みや局所的多発障害が争われているが、国・裁判所は認めていない。爆心からの距離などの根拠なく引いた行政的判断基準が中心にあるからだ。
 原爆・原発による放射物質の大量拡散のガン以外の人体被害のエビデンス(疫学的根拠)はない。長崎・広島へ被爆直後に調査研究に入ったのは、米日軍関係者で、彼らの目的は医療ではなかった。しかも、その調査結果は公表されていない。福島では、小児甲状腺疾患が憂慮され、甲状腺調査が実施されているが、明らかに震災後に同疾患が増えているにも関わらず、比較対象群が存在しないとして、放射線の影響かどうか不明とされている。ガン以外でも晩発性障害の発生・確認には長い時間が必要なのだ。これまでに見られなかった症状が現出したとき、それを発生させた事故・事件とのつながりを即座に疑うのは当然の態度であり、エビデンスなどという一見科学的装いに惑わされてはいけない。
 日本では、水俣病でも県内悉皆調査はされていない。「公害」被害者を本気で救うという施策はこれまでとられていない。
 
 <参考文献> 放射性について素人が考えるのは難しい。測定単位が複数あり、人間への影響が一律ではないからだ。しかも、内部被曝は測定できないときている。この程度のまとめはできたが、あとは参考文献に譲る。容認派と否定派の隔たりは大きく深い。容認派は「今後の研究が必要だ」というばかりだ。
『人間と環境への低レベル放射能の脅威』ラルフ・グロイブ/アーネスト・スターングラス 肥田舜太郎・竹野内真理訳 あけび書房 2011年6月刊
内部被曝肥田舜太郎 扶桑社 2012年3月刊
内部被曝の真実』児玉龍彦 幻冬舎 2011年9月刊
『虎の巻 低線量放射線と健康影響』 独立行政法人放射線医学総合研究所編著 医療科学社 2007年7月刊
『アヒンサー 未来に続くいのちのために 原発はいらない 第6号』PKO法「雑則」をひろめる会 2016年10月刊