人畜無害の散流雑記

別ブログ閉鎖で引っ越して来ました。自分のための脳トレブログ。

  対米従属を前提とした日米安保

 朝日新聞2020年2月4日朝刊「オピニオン&フォーラム」に「日米安保改定はや60年」と題して立命館アジア太平洋大学出口治明学長のインタビューが掲載された。「「強兵」を代替させ スネかじり「富国」 地の利は冷戦まで」「同盟ぜひ維持 中国とも仲良く ビスマルク流で」という見出しで大方の内容は理解できよう。読後に違和感が残った。
 吉田茂が『強兵』を安保条約で米国に代替させて、『開国・富国』で再建を果たそうと決断した」。ウーム? 「戦後の日本は、米国というお父さんのスネをかじり尽くした息子で、鉄鋼、自動車、半導体など米国の主要産業を全部潰して成長してきたようなもの」。ウーム? 「安全保障を考える時に、自分で防衛力を強化するか、どこかと軍事同盟を結ぶか、基本はこの二つ」「今の日本の財政状況で、自国だけで守れる軍備などつくれるはずがない」「同盟を結ぼうとすれば(中略)米中2カ国しかない」。 ウーム。
 違和感の一つ目は、「安保改定60年」を掲げながら、安保の歴史には触れず、経済に解消していることだ。ここが焦点なら、「サンフランシスコ条約発効68年」とでも題すれば良かった。しかも、ここでの出口氏の指摘は歴史の片側しか見ていない。
 安保条約で「強兵を米国に代替してもらった」のではなく、米軍の名称を「在日米軍」としただけで、占領軍としての実態をそのまま残し、沖縄を日本から分離して統治し、日本を反共防波堤国家として育成する方針を日本自らが進んで受け入れたのだ。その結果、米軍の手足となる「警察予備隊」が作られ、やがて米軍の武器で装備された自衛隊となる。現在でも、自衛隊は実質上米軍の指揮下にあると考えるのが妥当だ。「核の傘」とは核従属の別名だ。
 日本の経済は「米国の主要産業を全部潰して成長してきたようなもの」ではない。むしろ、TV放送や原発など米国規格を導入・推進し、米国農工業の消費市場になった。「鉄鋼、自動車、半導体」も現状を見れば分かる通り、国際的に低賃金国へ移っていっただけだ。
 違和感の二つ目は、安全保障の考え方だ。日本は独力で「自国を守れる軍備」を作れないのか? やる気になればできる。イスラエル・インド・パキスタン北朝鮮がそれだ。被爆国日本には、原発で使用するウランも、再処理したプルトニウムもあり、衛星を打ち上げるロケット技術も開発済みだ。その気になれば、戦術的・戦略的核兵器は開発・所有できる。安全保障を軍備面で考えれば、こうなっても不思議ではない。日本が核兵器開発の物質的準備をしながら、着手していないのは、国民世論の動向と米軍の意向があるからだ。
 日本が、政治的・経済的・軍事的に真に独立したとき、もし安全保障の要が軍事だという判断をしたなら、核兵器開発への着手はありうるだろう。
 違和感の三つ目は、ここまで書き散らしてきた程度のことは研究者であれば常識だと思うのだが、あたかも日本が独立・自立しているかのように平然と答えている態度だ。政治的に保守派であろうとも、歴史を諸側面から総合的に見ることは必須だ。対米従属の克服こそが革新派だけでなく保守派本来の責務だろう。
 急がれるのは、憲法改定ではなく、日米安保条約日米地位協定の改定なのだ。沖縄県の現状がその象徴だ。